読書をする際、皆さんはどういった基準で本を選びますか?例えば作家、表紙、タイトルにジャンル…。
そんな数ある選び方の新しい提案として、女性作家というのはどうでしょうか。
多くの女性作家の良さの一つは、やわらかい文や豊かな表現です。情緒に溢れた繊細な世界観は、頭だけでなく心の琴線を強く震わせます。今回はそんな女性作家の数々の名作を、作家自身の経歴とともに紹介していきます。
気になるものがあれば手に取り、ぜひご一読ください。
宮部みゆき

経歴
宮部みゆき(みやべみゆき)、東京都江東区生まれ。父親や映画好きな母親から落語や怪談話、ハリウッド映画を語り聞かされる子供時代を送る。
OL、法律事務所、東京ガス勤務を経て「我らが隣人の犯罪」で小説家デビューする。
代表作:「火車」
刑事である主人公は犯人確保の際に負った傷のために休職していた。そんな中亡くなった妻の親戚である男から、謎の失踪を遂げた自らの婚約者を探し出してほしいと頼まれる。話によるとクレジットカード作成時の審査途中に自己破産者だと判明し、問い詰められた末に姿を消してしまったそうだ。
しかし調べていくうちにどんどんと謎が出てきて…。
じわじわと真相に迫っていく構成、衝撃の結末はまさに名作と呼ぶにふさわしい臨場感です。読んだことのない方はこの機会にぜひご一読下さい。
湊かなえ

経歴
湊かなえ(みなとかなえ)、広島県因島市生まれ。小中学時代から図書室で江戸川乱歩や赤川次郎の作品に親しむ。アパレルメーカーに勤務し青年海外協力隊隊員としてトンガに赴任、淡路島での非常勤講師を経て27歳で結婚、28歳で第一子を出産する。
その後創作活動を始め、小説家としては2007年に「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞しデビューする。
代表作:「告白」
我が子を校内で亡くした主人公の女性教師によるホームルームでの告白。級友、犯人、犯人の家族などがそれぞれに告白していくごと、徐々に事件の全容が明らかになっていく。
第一章がデビュー作として小説推理という小説誌の新人賞を受賞した作品で、「告白」自体がデビュー作とも言えます。それぞれが様々な思惑をもってして行動し、それが淡々と語られていく、その様相は不気味な雰囲気です。次々と現れる展開には一気見必須です。
有川浩

経歴
有川浩(ありかわひろ)、高知県高知市生まれ。2003年に「塩の街 wish on my precious 」で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞し、その翌年に同作でデビューする。
2作目からは一般文芸書籍と同様のハードカバー出版が続いているものの、インタビューにて自作は大人向けのライトノベルだと話している。
代表作:「図書館戦争シリーズ」
メディア良化法により表現の自由が奪われた世界。主人公は高校生の時に出会った図書隊という自由を守るために図書館が設立した組織の人物に救われる。大人になった主人公は、その憧れの人に会うために図書隊に入隊する。
感動、恋愛、友情、アクションと全てが詰まった青春SFストーリーです。
ワクワクしたり、ドキドキしたり様々な感情を体感させてくれます。
子供から大人まで楽しめるので、手軽に読んでみて下さい。
辻村深月

経歴
辻村深月(つじむらみつき)、山梨県笛吹市生まれ。幼少期から読書好きで、ミステリーやホラー、ヤングアダルト作品を読んでいた。
すでにこの頃からノートにホラー調の小説を書き始め、2004年に「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞し、デビューする。
代表作:「かがみの孤城」
学校で居場所をなくした主人公が閉じこもっていたある日、目の前で鏡が輝きだした。鏡を潜り抜けた先には城のような不思議な建物があり、似たような境遇の7人が集められていた。
本屋大賞を受賞した本作は主人公の成長物語です。登場人物と交わりながらそれぞれが抱える内情と向き合って前に進んでいく姿は、清々しいものです。
島本理生

経歴
島本理生(しまもとりお)、東京都板橋区生まれ。小学生の頃から小説を書き始め、15歳のときには文芸雑誌の掌編小説コンクールにて当選、年間MVPを受賞する。
2001年に「シルエット」で第44回群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビューする。
代表作:「ナラタージュ」
大学2年生となった主人公の元に、かつて想いを寄せていた高校の恩師から連絡がくる。OBとして高校の演劇部の手伝いを頼まれ、それをきっかけに2人の距離は縮まる。しかし恩師には別居中の妻がいて…。
早熟な作者が描く恋愛小説です。20代らしい心の揺れと繊細さが表現されていて、誰もが経験したこのあるであろう切ない気持ちを思い起こさせます。
普段恋愛小説を読まない方も、ぜひ手にとってみて下さい。
江國香織

経歴
江國香織(えくにかおり)、東京都世田谷区生まれ。小説家、児童文学作家、翻訳家、詩人を兼業している。1985年、20歳で芸術総合誌に詩作品「綿菓子」を初投稿し、掲載される。1989年に「つめたいよるに」でデビューする。
代表作:「きらきらひかる」
結婚した主人公達、だがその妻はアル中で夫はゲイで恋人もいる。全てを許し合って結婚した…筈だったのだが。
ドラマ化もされた本作、夫婦の形にこだわらずに生きる純粋すぎる登場人物達は、1991年に発表されたとは思えないほど古さを感じさせません。
さすがとしか言いようのない表現力で描かれる愛らしい世界。一度は読んでおきたい名作です。
桐野夏生

経歴
桐野夏生(きりのなつお)、石川県金沢市生まれ。24歳で結婚後、シナリオスクールに通い、マニュアル文章を書くフリーライターとして活動する。
1984年に「愛のゆくえ」で第2回サンリオロマンス賞に佳作入選し、デビューする。
代表作:「顔に降りかかる雨」
親友のノンフィクションライターが1億円を持って消えた上、その大金を預けた男は暴力団上層部とつながる暗い過去がある。あらぬ疑いを受けた主人公は男と共に解明に乗り出す。
ハードボイルドサスペンスにドロドロとした陰鬱な展開、巧みな人物描写まで作者らしさが詰まった作品です。
本作は村野ミロシリーズとして続くので、ぜひ作者の作品の導入としてご覧下さい。
畠中恵
経歴
畠中恵(はたけなかめぐみ)、高知県生まれ。漫画家アシスタント、イラストレーターを経て都筑道夫に師事し、小説家となる。
2001年に「しゃばけ」で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、デビューする。
代表作:「しゃばけ」
江戸時代、身体の弱い若旦那と若旦那に仕える人々や妖たちが協力して事件を解決していく。
謎解きにも力が注がれた時代物ファンタジーです。シリーズとなっており、それぞれのキャラクターが立っているため愛着が湧きます。さらに言葉使いが時代物にしては小難しくなく大変読みやすい作品です。
時代物に抵抗を感じる方にもオススメできるので、興味のある方はぜひ手にお取り下さい。
三浦しをん

経歴
三浦しをん(みうらしをん)、東京都生まれ。当時出版社に就職することを志望しており、入社試験の際に作文を読んだ担当面接官から執筆の才を見いだされ、小説を書くように叱咤激励される。
2000年に「格闘する者に◯」でデビューする。
代表作:「船を編む」
出版社の営業部員の主人公は言葉のセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれる。新しい辞書の完成に向け、主人公と編集部の人々の旅が始まる。
映画化、アニメ化共にされた本作は、ご存知の方も多いのではないでしょうか。表紙や辞書を作るという題材から堅い印象を受けているかもしれませんが、登場人物1人1人の心情が丁寧に描かれているため、共感しやすいです。
辞書や言葉にかける熱い思い、映画だけ見たという方もぜひ一度手に取ってみて下さい。
小川洋子

経歴
小川洋子(おがわようこ)、岡山県岡山市生まれ。子供の頃より読書好きだった。中央教員秘書室に就職し、その2年後結婚を期に退社する。その際小説の執筆に取り組み始める。
1988年に「揚羽蝶が壊れる時」で文芸雑誌の新人賞を受賞し、デビューする。
代表作:「猫を抱いて象と泳ぐ」
唇を閉じて生まれた少年が成長を恐れ、11歳の身体のままチェスと共にリトル・アリョーヒンとして生きる物語。
柔らかく暖かな作風で、小川洋子さんが女性作家の印象を作ったと言っても過言ではないでしょう。
この作品もまた日射しの暖かさから影がつくる光のコントラストまでを綺麗に表現しており、読了後は心が洗われたような気持ちになります。
主人公であるリトル・アリョーヒンのチェスが描く世界の美しさ、愛着が湧く人物達、ぜひ一度は読んでいただきたい作品です。
瀬尾まいこ
経歴
瀬尾まいこ(せおまいこ)、大阪府大阪市生まれ。大学を卒業後中学校国語講師を9年間勤める。2004年に教員採用試験に合格し、2005年からは中学校で国語教論を勤めた。2011年に退職するまで、勤務の傍ら執筆活動をする。
2001年に「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年デビューする。
代表作:「そして、バトンは渡された」
血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も名字が変わった主人公。だがいつでも両親を愛し、愛されていた。
笑いあり涙ありの愛情と優しさ、温かさに溢れた作品です。血の繋がりがないからこそわかる家族の大切さや幸福があります。ラストまで涙なしでは見れない作品です。2019年本屋大賞の大賞をとっています。
村田沙耶香

経歴
村田沙耶香(むらたさやか)、千葉県印西市生まれ。大学に通いながら小説を執筆する。4年生になり就職活動をするが、断念し1年間フリーターをしながら小説を書き続ける。
2003年に「授乳」で第46回群像新人文学賞を受賞し、デビューする。
代表作:「コンビニ人間」
大学卒業後、就職もせずにコンビニでバイトをし続ける主人公。バイト18年目に新入りの男性に恥ずかしくないのかと突きつけられるが…。
第155回芥川賞を受賞した本作は、まさに衝撃の作品といって間違いないでしょう。主人公の思考もさることながら結末まで失速せずに進むストーリーも驚きをもたらします。
しかしながら世界に違和感を感じズレながら生きる主人公の姿はどこか理解でき、僅かな共感を感じるものです。
ぜひ一度”コンビニ人間”の生態をご覧下さい。
西加奈子

経歴
西加奈子(にしかなこ)、イランの首都テヘラン生まれ。小学5年生までは海外生活だったが、それ以降は大阪で暮らした。
身一つで上京しライターを経て、2004年に出版社への持ち込み原稿であった「あおい」でデビューする。
代表作:「サラバ!」
主人公はイランのテヘランで生まれ、大阪で幼児期を過ごし、父親の転勤でエジプトのカイロで幼少期を過ごし、再び日本に戻ります。母や姉に振り回されつつも順調に育った主人公。だが恋愛や仕事が上手くいかなくなってきて…。
本当に大切なことに気づかせてくれる、主人公の成長物語です。自分の軸を持って生きていくこと、それは進んだり停滞したりしながらも信じていなければなりません。生きるパワーに満ちた作品です。
吉本ばなな

経歴
吉本ばなな(よしもとばなな)、東京都文京区生まれ。姉が絵が上手かったことから、自らは作家になろうと5歳から考えていた。
大学の卒業制作の「ムーンライト・シャドウ」が日大芸術学部長賞を受賞。
1987年に「キッチン」で文芸雑誌の新人文学賞を受賞し、デビューする。
代表作:「キッチン」
唯一の肉親であった祖母を亡くした主人公は、祖母と仲が良かった人の家に同居することになった。同居人2人との生活で、主人公は孤独な心を癒していく。
ゆったりとした世界観で、大切な人を亡くした悲しみに向き合っていく、優しさと陽炎のような希望の光に溢れた作品です。デビュー作とは思えないほどに完成されており、たまに見返したくなる雰囲気があります。
桜庭一樹
経歴
桜庭一樹(さくらばかずき)、鳥取県米子市生まれ。
図書室でよく会う女の子に感化され、小学生4、5年生の時に小説の執筆を始める。
1999年に「夜空に、満点の星」で第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビューする。
代表作:「私の男」
震災によって家族を失った主人公は、親戚の男に引き取られますが、実は2人は血の繋がった親子だった。2人はやがて性的な関係を結んでしまい…。
甘くてドロドロとした毒に侵されている主人公を現在から過去に遡って描かれた作品です。この構成のおかげで、謎解きの答え合わせのような読み応えがあります。共依存的世界は恐らくも惹かれるものです。
柚木麻子

経歴
柚木麻子(ゆずきあさこ)、東京都世田谷区生まれ。卒業後、製菓メーカーへの就職を経て塾講師や契約社員などのかたわら小説の賞に応募し、2008年に「フォーゲットミー、ノットブルー」で小説誌の新人賞を受賞し、デビューする。
代表作:「私にふさわしいホテル」
文学新人賞を受賞きた主人公は憧れの小説家になれる筈だったが、同時に受賞した元人気アイドルに注目を奪われてしまう。それから2年半経ち、主人公は依頼もないのに山の上のホテルに自腹でカンズメになった所…。
小説家が描く編集者との関係や文学賞の裏側はノンフィクションの部分を感じさせます。軽やかながらも中身の詰まったストーリーは、読者好きならば一見の価値ありです。
森絵都
経歴
森絵都(もりえと)、東京都生まれ。
児童文学執筆の傍らアニメーションのシナリオを手掛ける。
1990年に「リズム」で第31回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビューする。同作品で翌年、第2回椋鳩十児童文学賞も受賞した。
代表作:「カラフル」
死んだ筈の魂が暗闇を漂っていると、天使が抽選に当たったため1度だけ生き返るチャンスが得られると言われる。
そのチャンスは、一定の期間、現世の誰かの身体を借りて修行を積んでくるというものだった。
まさに衝撃の結末を迎える作品です。
読みやすい文体で多様な人間関係を描いていて、悲しみの中に立ち向かっていく主人公を鮮やかに映し出します。
武田綾乃

経歴
同志社大学在学中に小説家デビューを果たす。綿矢りささんが書いた『蹴りたい背中』に影響を受け、小説家を志すようになる。作品は青春をテーマとした作品が多く、学校や学生などを題材として人間関係などをリアルに細かく描く。
代表作:「響け! ユーフォニアム」
『響け!ユーフォニアム』シリーズは、武田綾乃さんの作品の中で一番長いシリーズです。中高の吹奏楽部の経験と母校の取材を基に描いた作品で、アニメ化もされました。多くのファンに親しまれている作品です。北宇治高校という弱小吹奏楽部を舞台とした作品とその同じシリーズ作品である『立華高校マーチングバンドへようこそ』という強豪校を舞台としている作品があります。全国をめざすために奮闘する北宇治高校の青春ストーリーと全国常連の立華高校の青春ストーリーの2つの作品をぜひ見てみてください。
梨木香歩
経歴
梨木香歩(なしきかほ)、鹿児島県生まれ。イギリスに留学し、児童文学者のベティ・モーガン・ボーエンに師事する。
1994年に「西の魔女が死んだ」で日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館賞を受賞し、デビューする。
代表作:「家守綺譚」
100年ほど前の話。湖で行方不明になった親友の家を家守することになった主人公。その家の庭では摩訶不思議な現象が起こる。まだ人でないものが見え、近くに存在した時代ののびやかな高歓記。
四季や天気の移ろいや植物などの自然が美しく描かれていて、心地よく温かな気持ちにさせてくれます。さらに懐かしさを感じる世界観は優しさに満ち、まだ我々の近くには見えないだけで不可思議な存在がいるのかもしれない、そう思える作品です。
山崎豊子

経歴
山崎豊子(やまさきとよこ)、大阪府大阪市生まれ。
毎日新聞社に入社し、勤務の傍ら執筆活動をする。1957年に「暖漣」でデビューする。
翌年、吉本興業の創設者である吉本せいをモデルとした「花のれん」で第39回直木賞を受賞した。
代表作:「沈まぬ太陽」
主人公は日本を代表する企業である国民航空会社にエリートとして将来を嘱望されながらも、アフリカへと内規を無視した”流刑”に耐える日々を送る。10年に及ぼうとする中、その人命を預かる企業の不条理に、不屈の闘いを挑んでいく…。
映画化もされた大ベストセラーです。
実在した人物を元に描かれているため、人間らしい主人公を含めた登場人物たちを応援せずにはいられません。
長い分、読了感は他作品とは一線を画す作品となっています。
女性作家の小説のおすすめまとめ
いかがでしたか?女性作家と一括りに言っても、作品の雰囲気や目指す所はとても多様です。
違う時代、環境を生きてきた女性作家さん達がその経験や感性に基づいて描く世界を見ることは、彼女達の人生の一部を垣間見ることに変わりありません。
もし少しでも気になる作者さんがいれば、ぜひ本を手に取ってみて、彼女達の世界を覗いてみて下さい。
ご覧いただきまして、ありがとうございました。この機会にお気に入りの作者さんがまた1人見つかれば幸いです。
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